2016年に台湾で出版されたノンフィクションの翻訳を担当いたしました。2008年の四川大地震の被災地における集落再建の取り組みが主なテーマです。
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「パブリッシャーズ・レビュー」第81号(2019年12月15日)掲載の五十嵐太郎氏による書評↓
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以下、担当訳者として感じたことをカバーの裏表紙風に……
台湾の建築家・謝英俊を有名にしたのは、シンボリックな巨大建築などではなく、どこにでもありそうな民家の建設だった。彼が家づくりに取り組むのは、たとえば四川省の山奥にある少数民族地域。ある村では震災後に全村移転を余儀なくされ、新しい集落を建設しようとしていた。謝英俊にいわせると、その土地の被災者たちは決して「弱者」ではない。なぜなら、自分たちで家を建てる能力を失っていないから。
そんな住民たちの相互扶助による家づくりを実現するのが「協働セルフビルド」であり、開かれた建築システムと簡易化された構法/工法である。だが、その取り組みは常に成功するわけではない。同じ農村でも商品作物の生産により潤う地域、さらに都会に近い平野部など、環境によって人びとの価値観は異なり、家づくりのあり方もさまざまだった。
当時、建築学科の院生だった著者は、少数民族の多い地域で展開されるフィールドワークのような実践を、ありのまま記録している。体裁を整える安易な言葉でまとめようとはしていない。作中でも語られるが、その手法は半ば意図的であり、半ば条件に強いられたものである。何か分かった風な概念を並べるよりも、細かな出来事の描写を重ねることでこそ表現できる本質があると、そう確信しているように訳者には感じられた。文学青年でもある著者は、とりとめなく写実されるエピソードの積み重ねを、広い意味での文学として機能させることを意図しているのだ。
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